続・脱力日記

描いたり作ったりしてる人のダラダラ日記

お別れ

大事なお友達を失くしました。
同じ町内で私より少し若くて日本画を描く人でした。


お互いに下の子がまだ幼稚園だ保育園だという頃からのおつきあいで
親しくなってもう25年近くもなるかな。
最初は生協の協同購入のグループで一緒になって、
生協の配達品を受け取りにお宅に伺ったら
玄関に40号くらいの油絵の人物画が飾ってあった。
あらー、この感じは日本画の方が向いてそう!と思って聞いてみたら、
ご本人が描いた絵でしかも本当は日本画が描きたいと。
私はちょうどその頃秋田大学で聴講生として日本画を学び始めたところ。
しめた!仲間ができる!


最初は私が秋田大学で学んだ事を受け売りすることから始まり
どんどんと大きな絵を描くようになって、
やがて私が受け売りできることはすっかりなくなり、
あっと言う間に県展で特賞をとり、院展に入選し…。
あらー、なんという上達ぶり!というか、もともと才能があったのね。
一方私はといえば、県展に何回か入選しただけで
仕事が忙しかったり、あちらこちらに興味がとっ散らかったりで
日本画からはすっかり足が遠のいてしまった。


それでもご近所だから、何かにつけお宅におじゃまして
家族の事やら絵の事やらとりとめもなくおしゃべりをした。
彼女が所属した日本画グループ「蒼樹会」の定期展覧会も必ず見に行ったし。
そんな折節に思い出したようにまた一緒に描こう!って誘われた。
彼女は寄りかからない人で、相手との距離をはかれる人だった。
だからすごくすごく遠慮がちに、でもあきらめることなく誘ってくれた。
でも私には私の思うところがあったから、いや無理!って断った。
断っても断っても、しばらくたつと誘われた。気を使いながら。


数年前、院展の先生の勉強会があるから来ない?ってまた遠慮がちに誘われた。
実は院展、特に今の院展はあんまり好きじゃない。
でも秋田では公募展といえば院展くらいしか回ってこないから
毎年見に行くんだけれども、入選作の中にピンとくるのはあまりなくて
ただ偉い先生の中に1人だけ好きな先生がいて、その人の絵を見に行く感じ。
そしたらなんと、誘ってくれた勉強会の先生というのがまさにその先生だった。


この先生に教えていただけるのなら描きたい!
でも日本画から離れて何年になるだろう。10年は余裕でたっているよね。
そんな自分がいきなりこんなに偉い先生の勉強会に参加しても大丈夫?
だいたい他の参加者はみなさんバリバリの方たちじゃない!?
えーー、やっぱりダメでしょー!って、まぁビビってそう言ったんだけど
遠慮深い彼女は、同時にどーんと強い人でもあって
私がなんとなく揺れ動いているのを見てとると
大丈夫!大丈夫だから!参加して!って背中をドカンと押してくれた。


自分の描きたいと思う日本画に戻ってこれたことが嬉しくて
友達とまたいっしょに描けることが嬉しくて
誘ってくれてホントにありがと!の気持ちでいたんだけど。
これから一緒に絵を並べて展示できるねって時に
彼女は病気になってしまった。


寄りかからない人だから、泣き言はいわない。甘えても来ない。
でも助けて欲しい時には遠慮なく頼み事をして来てくれた。
病状を細かに話すことはなかったけれど、
その折々に受けた処置の話はしてくれた。
悪いところはきれいに取れたよ。薬がよく効いているよ。
再発したよ。ステントを入れたよ。ポートを入れたよ。
高カロリー輸液をつけて退院したよ。
また入院したよ。肺炎になって退院がのびたよ。


だから、だんだんに良くない方に行っているのはわかっていた。
たちの良くない病気だっていうのも最初からわかっていたし。
それでも、それでも、その日はそんなに早くは来ないだろうと。
まだ、一月や二月は、いや、半年だって。もしかすれば一年だっていけるかも。
と思っていたのに。


最後に会って4日目の朝に突然逝ってしまった。
その日の午後にはまた会いに行くつもりでいたのに。


早すぎるよね。




いずれその日が来るとは、頭ではわかっていたけれど。
全然心がついていかない。
私は大事な大事な何かをなくしてしまった。



彼女は老いたお母さんとお姑さんの世話を良くしました。
身体の丈夫とはいえないご主人を良く支えました。
二人の息子をしっかり育てあげました。
そして、黙々と絵を描き続けました。



院展に初入選した絵「小休止」。



こちらは昨年入選した絵「かぐやの夢」。
すでに再発してしまった後でそれでも絵筆を握って入選を果たした作品です。
晴れがましい場である秋田展の時には入院中で、会場にくる事はできませんでした。


下の絵は20年も前に私が描いた
彼女をモデルにしたスケッチです。


最後のお別れに行ったときも、こんな微笑みを浮かべていました。
美しいお顔でした。
長い間お友達でいてくれて、ありがとう。ありがとう。
香代子さん、どうぞやすらかに。