続・脱力日記

描いたり作ったりしてる人のダラダラ日記

絵巡り旅

20日から2泊3日で都会に行ってきました。大きな用事は2つです。
1つは今年9月に84歳になる母の個展をお祝いかたがた見にいくこと。もう1つは尊敬する先生の画室で開催される勉強会に参加すること。そしてその間を埋めるように絵を見てまわりました。あー、面白かった!ない頭ながらぐるぐると絵について思いを巡らすことができました。
なんでもすぐに忘れちゃうのでここにざっと記録しておきます。


1日目は羽田から神奈川の先生のお宅へ直行。初めての場所ながらスマホに導かれてなんとか到着。スマホ様々です。今回は時期的に参加者が少ないということで私をいれて6人での勉強会となりました。とても広くて明るい画室で、大きな画架下の床に点々としみついた絵具の跡も好もしく。こういう場所で描いておられるのだと、それを拝見するだけでもお邪魔した甲斐があるというものです。
その場での簡単な写生とアドバイスを頂いた後の再写生。持ち寄った作品に批評を頂いた後にお茶飲み話をして解散。これが勉強会の基本コースですが、私は先生の「絵を描くとは対象の何を描くということか」「日本画を描くとはどういうことか」というお話を聞くのがとても好きなのです。
対象から教えてもらうという姿勢で多くの写生をすること
形の中の螺旋と揺らぎを意識すること
筆の線を大事にすること
陰影にこだわらず余分なものは極力削ぎ落とすこと
これらのことを繰り返しお話してくださいます。ともすれば今の流行にそぐわない古いと思われかねないお話なのですけれど、シンプルな真理がそこにあると思うし私の気持ちにはとてもしっくりきます。もともと先生の絵は大好きだったのですが、こうして間近にお話を伺うようになって実は先生が絵に求めていらっしゃる事そのものが好きだったのだということがわかるようになりました。この年になってこのように自分の好きな先生とご縁ができ、ご指導をいただけることの幸せというのはこの上もないことですね。
しかしさすがに先生、絵には厳しい。ちょっと泣き言を含めお願いしたことがあるのですが却下されました。あのお年であれだけ描いておられる方ですものね…、そうなるわな…。大丈夫か自分?とにかくがんばって描こう。。。そうしよう。。



2日目は母のこれが5回目になる個展。


趣味の絵ですけれど画歴は無駄に長いです。甲斐清子先生の絵画教室でお世話になり始めてからでも30年。油絵にいたっては50年近く続けています。そしてこの無駄に長いってことは侮れないというかむしろまさにそれが「力」ですね。110×75cmの大判紙に100分(20分ポーズ×5回)で仕上げるデッサンのもつ重み!

描くこと、描き続けることを見習わなくてはいけません。20点ほど並べられた油絵の中ではこれが気にいりました。うまく言えないのですが、ちゃんと人がいますよね。

「人がいる」ってとても難しいです。技術的に上手に描いてあっても「人がいない」絵ってありますもの。この絵は細かい所にこだわってはいないけれど、ちゃんと塊として人がいる。と、私は思うのです。なんでそう思えるのかなとまじまじ見たんですが…。長いデッサン歴があってかつ欲がないからかな。そんな気がします。
何にしても母にはこれからも元気で長く描き続けてもらいたいものです。



最後に合間合間に巡って心に残った絵の話をまとめておきます。

●横浜そごうで開催中の「再興第100回 院展」

大画面が中心の「秋の院展」の巡回展です。秋田には毎年小画面の「春の院展」しか巡回してこないので、じっくりと大画面を堪能してきました。また秋田展では同人など偉い先生方の作品は硝子で仕切られた奥の壁面に展示されます。硝子から壁面までの距離も結構あって絵を間近に見る事がまったくできません。それが、このそごう展では目の前の壁面にポンと展示されています。嬉しくて目を近づけてなめるように見入ってしまいました。やはり間近に見ないとわからないことってありますから。特に細い線の力の入り方とか、流れとか。先生の絵の前でまた「人がいる」の理由を考えずにはいられませんでした。頭で考えても仕方ないのかな…というのがとりあえずの結論。結局ここでも「描け」ってことですね。



東京国立近代美術館のMOMAT コレクション特集「春らんまんの日本画まつり」
てっきり安田靫彦展をやっているものだと思ってわくわくしながら行ったんですが、なんと安田靫彦展は23日からだそうで…。がっかりしたのですがそのかわりに見た常設展が良かった!川合玉堂の「行く春」

それと菱田春草の絵巻「四季山水」の前ではしばらく足が止まってしまいました。とにかく横スクロールに弱い私(笑)。前田青邨の「石棺」もとても良かった。あの線!あの色!
定番の岸田劉生萬鉄五郎は、またお会いしましたねって懐かしく嬉しいけれど、私が好きなのはやっぱり昔ながらの日本画だと再認識。最近の日本画は、あれは日本画材を使った洋画だと思うしね。(日本画、洋画って分け方もなんだかなと思わないでもないけれど、それはそれとして)



東京国立近代美術館工芸館の「芹沢けい介のいろは―金子量重コレクション」
芹沢けい介の作品には愛嬌がありますよね。暖かさというか。そしてやはり写生がとても良かった。一本の線って本当に多くを語るもので見ていて飽きません。



浅草寺の「伝法院庭園特別拝観と大絵馬寺宝展」

普段は非公開のお庭と寺宝なのだそうです。お庭はもちろんとても良かったですが、やはり気になるのは絵馬。江戸から明治期の江戸気分が横溢したでっかい絵の数々。特別の人の為の芸術ではなくて心意気のエネルギーにあふれています。もちろん職人や絵師の腕は確かですからその描線の勢いや繊細さ、形の的確さが「人がいる」ことを生み出していて、うーむとうなってしまうのでした。あと浅草寺の縁起絵巻も展示していまして、横スクロール好きとしてはたまらなかったです。寛文の頃に描かれたものだったと思うのですが、保存状態も良くその筆運びの細やかで美しいこと!墨線、いいよねぇ。墨線って本当にきれいだわー。


ついでですから本堂にもお参りしましたが、天井を見上げてびっくり、堂本印象じゃないですか!

堂本印象も好きな画家なので思いがけないプレゼント。国内外の観光客であふれている堂内ではみんなおみくじ引くのに一生懸命で、天井を見上げる人がいないのがちょっと残念でしたけど私は1人でニコニコでした。



あまり人とも会わずに絵巡りをした今回の旅。結論は「とやかく言わずに描かねばね」でした。こんな駄文を書いている暇があったら描けということですね。手は遅く腰も重い私ですが自分なりになんとかがんばって描き続けようと思いました。(小学生並)
あ、あと絵がらみでもう一つ。世界堂は正義だな。東急ハンズと双璧でああいう店がそばにあったらどんなに幸せでしょうね。(やっぱり小学生並)